INTERVIEWどうして寄生植物は寄生できるようになったのか

奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス領域 教授

吉田 聡子

2022.5.19

芽生えた環境から動くことのできない植物は、実に多様な栄養獲得のしくみを進化させてきた。その究極とも言えるのが、他の植物に寄生して栄養を受け取る寄生植物である。寄生植物は、宿主となる植物を見つけると、吸器と呼ばれるコブ状の寄生器官を形成して内部に侵入し、維管束をつなげることで宿主から栄養を獲得する。宿主の居場所を正確に見極め効率的に寄生する寄生植物は、どうやってそのような能力を身につけたのだろうか?変異体の探索と遺伝子解析から寄生植物の寄生のしくみを解き明かそうとしている吉田聡子教授に研究の魅力を聞いた。

好奇心は研究の原動力

地球上にある植物の約1%が寄生植物だと言われています。ポケモンにも登場するラフレシアや木の上に生えるヤドリギ、ヤッコさんの形をしたヤッコソウなども寄生植物です。ラフレシアやヤッコソウは、光合成能力を失い、葉も根も持っておらず、その栄養源を宿主植物に完全に頼っています。一方でヤドリギは、葉を持っており、光合成もできます。冬でも緑の葉をつけているので、ヨーロッパでは永遠の命を象徴し、幸運をもたらす樹として親しまれています。これらの植物は絶対寄生植物と呼ばれ、寄生しないと生きていけない寄生植物ですが、実は、多くの寄生植物は、寄生しなくても生きていける条件的寄生植物です。普通に葉と根をもち、花を咲かせるので、見た目では寄生植物かどうか分からないものもたくさんあります。

私たちの研究室では、日本に自生する条件的寄生植物であるコシオガマを使った研究をしています。コシオガマは、ハマウツボ科に属し、宿主植物の根に寄生する根寄生植物です。ハマウツボ科の絶対寄生植物の中には、アフリカでトウモロコシなどに寄生し病害寄生雑草の代表例として知られる「魔女の草」ストライガ(INTERVIEW16参照)や、ニンジンやトマトに寄生して農業被害を出しているオロバンキやフェリパンキの仲間が含まれます。コシオガマをモデルとして研究することで寄生のしくみが分かれば、病害寄生雑草を防除する方法を見つけることができるのではないか、と思っています。加えて、寄生植物がどうしてこんな能力を身につけたのか、という純粋な疑問を解きたい、という好奇心も研究の大きな原動力です。

ソルガムに寄生する寄生植物ストライガの花。スーダンにて。

気がついたら博士課程に進んでいた

もともと環境問題に興味があり、大学院では植物の環境応答や葉の老化を研究していた渡辺昭先生の研究室に所属しました。葉の老化は年齢によっても起こりますが、さまざまな環境ストレスがかかった時に植物が積極的に葉を老化させて細胞内の栄養分を分解して若い葉に回し再利用している、ということが分かってきた頃でした。

先生から提示された研究テーマの一つがシロイヌナズナの葉の老化に異常が起こる変異体の単離でした。大学当時、馬術部に所属していて全く勉強をしてこなかった私は、友達に「変異体の探索なら何が出るか分からないから勉強しなくてもできそうだよね」と言われ、それだ、と思いました。先生に変異体の単離をやりたい、と言い、研究テーマが決まりました。それからくる日もくる日も種をまき、変異体を探し、気がついたら面白くなって博士課程に進んでいました。変異体の原因遺伝子は3年かけて突き止めたのですが、その後、自分の見つけた変異体のひとつがアメリカでだいぶ以前に単離された病害応答関連の変異体と同じ遺伝子座であることが分かりました。ここで、自分の勉強不足を後悔しました。学位はなんとか取得し、次に何をしよう、と思った時に、他の人と競争しない研究がやりたいと思いました。

植物共生の研究から寄生植物の世界へ

学位取得時にイギリスのセンズベリー研究所でマメ科モデル植物ミヤコグサを使った植物―微生物共生の研究をしているMartin Parniske博士の研究所でメンバーを募集しているというお話をいただき、研究員として雇ってもらえることになりました。

ミヤコグサの研究は当時黎明期で、共生に異常が生じる変異体を使って次々と重要遺伝子が発見されていました。窒素固定をおこなう根粒菌との共生に必要な遺伝子は、4億年以上も前から植物と共生し、植物が水や栄養分を土壌から吸収するのを助けてきたアーバスキュラー菌根菌との共生に使われてきた遺伝子を流用しているということが分かってきて、植物の進化の面白さを感じていました。私も最初は変異体からの遺伝子単離をしていたのですが、赴任して間もなく、日本の研究所で同じ変異体を解析していることがわかり、テーマを変更して共生に関わる受容体様タンパク質の機能解析をすることになりました。その後、Martinがドイツのミュンヘン大学に移ることになり、そのままついて行きました。

ミヤコグサの研究はとても面白かったのですが、やっぱりみんな共生に興味があるので、どうしても競争になります。自分はこの後どうしたらいいのだろう、と思っていた時に、学会に行く途中のオランダの空港で、ばったり、イギリスの研究所でグループリーダーをしていた白須賢さん(INTERVIEW05参照)に会いました。その際に、白須さんが今度日本に帰国し、理研で新しいラボを立ち上げること、そこでは全く新しい研究を始めたいと思っていることを聞きました。その後、白須さんから電話がかかってきて「理研で寄生植物の研究をする人を募集するのだけれど、応募しない?」と言われました。その時、初めて寄生植物のことを文献検索サイトPubMedで調べてみたところ、世界中で大きな農業問題になっているけれども、分子レベルでの研究がほとんどない、ということが分かり、これは面白そうかも、と思いました。

イネの根(青色)に侵入する寄生植物コシオガマの吸器(紫色)。侵入した吸器は維管束をつなげることで宿主のイネから栄養を獲得する。

突破口を開いたコシオガマ

寄生植物の研究は、最初はなかなかうまくいきませんでした。最初はストライガを材料に始めたのですが、しばらくは発芽させることもできず、8月に理研に赴任して、初めて寄生したストライガをみたのは11月の終わりでした。それからは、ストライガの遺伝子のカタログ化をして、宿主であるイネ科植物からストライガへ取り込まれた(水平伝播)遺伝子を発見したり、ストライガが寄生できる植物の種類(宿主特異性)を調べたりして、それなりに成果は出ました。

でも、ストライガは絶対寄生植物で、宿主に寄生させないと育てられない上、アフリカからの輸入禁止植物のため研究上の制約が多いなど難点がありました。そこで並行して、モデル植物探しをしていました。白須さんがいろんな人から植物や種子をもらってくれたり、自分でもあちこちに声をかけて、ハマウツボ科植物の種を集めました。発芽しても育たなかったり、葉がたくさん出ても花が咲かなかったりする植物が多かった中で、コシオガマは実験室内でもうまく栽培することができました。自家受粉で種子ができるため増やしやすく、ゲノムも解析しやすい2倍体ということがわかり、モデル植物として研究を始めました。

大学院生の石田ジュリアニさん(現・ブラジル ミナス・ジェライス連邦大学助教)が研究に参加し、遺伝子導入の手法を開発してくれたことでさまざまな解析が可能になりました。ちょうど次世代シーケンサー解析が脚光を浴びはじめた頃で、色々なところから技術的にも研究費的にもサポートを受けることができ、コシオガマのゲノム解読や遺伝子発現解析が進みました。こうして、コシオガマの研究ツールが揃ってきました。

細胞周期マーカー遺伝子を導入したコシオガマ。吸器形成初期の細胞分裂の様子が可視化できた。

変異体は謎を解く鍵

寄生植物研究を始めた時から、変異体を使って重要な遺伝子を探す分子遺伝学をやりたいと思っていました。シロイヌナズナでもミヤコグサでも、多くの重要な遺伝子が変異体を使って発見されていますが、寄生に関わる重要遺伝子は、まだほとんど見つかっていませんでした。

コシオガマは、宿主となる植物を見つけると吸器と呼ばれるコブ状の寄生器官を形成しますが、これには宿主植物の細胞壁に由来するキノン化合物が誘導物質として関わっていることが知られています。キノン化合物は土壌中で不安定なので、寄生植物にとっては、そこに生きた宿主植物がいる証拠なのです。実際、宿主の代わりにシャーレ内でキノンを与えても吸器を形成させることができます。そこでコシオガマに突然変異を誘発する処理をして変異体種子集団を作り、キノンを含む培地上で育てて、吸器の形成がおかしくなる変異体を探しました。吸器の形成に必要な遺伝子が壊れれば、吸器ができなくなることが期待できます。

その中で、意外にも吸器が異常に長く伸びる変異体が見つかりました。最初は意味がわからなかったのですが、キノンは吸器形成のきっかけをつくっているだけで、キノンがあっても宿主が見つからなければ吸器の伸長を止める、というしくみが存在することが分かってきました。変異体ではそのしくみが壊れたため吸器が伸び続けるのです。さらに面白いことに、その変異体を宿主に感染させようとすると侵入できずにそのまま通りすぎてしまいました。宿主がいないから伸長をとめる、というしくみと、宿主がいるから侵入する、というしくみを同じ遺伝子がコントロールしていることが分かりました。

吸器が伸びて宿主に侵入できないコシオガマ変異体の顕微鏡切片画像。この変異体は、発芽しても宿主(中央下)に侵入できずにそのまま通りすぎてしまう。

原因は、植物ホルモンであるエチレンの受容やシグナル伝達に関わる遺伝子の変異にありました。寄生植物はエチレンシグナルを通して、宿主がいる、いないを見分けているのです。この研究は、研究員として赴任して、今は助教をしているツイ・スンクイさんがやってくれました。吸器が伸びる、と言ってもほんの数百マイクロメートルの話です。それでも、宿主の表面まで到達できなければ、侵入できず寄生が成立しません。寄生植物が宿主の有無を正確に見分け、マイクロメートルの距離を調節して寄生を成立させているという精巧なしくみに感心しました。一方で、エチレンはどんな植物でも生産する一般的な植物ホルモンです。どうやって自分と宿主を見分けているのだろう、という点はまだ謎として残っています。

予想もしないしくみが隠されている

他にも変異体はいろいろ見つかっています。吸器ができない変異体、吸器を勝手に作る変異体、たくさん吸器を作る変異体などが取れています。これまで、キノン化合物が最も有名な吸器誘導物質だったのですが、キノンには反応しないけど、宿主植物には反応する変異体も取れてきており、宿主から分泌される吸器誘導物質はひとつではない、という感触を得ています。また、寄生植物が自分自身に寄生しないのは何故か、という謎を解く鍵になりそうな変異体も取れています。分子遺伝学の魅力は、思ってもいなかった表現型や予想していない遺伝子を見つけられることです。見つけた遺伝子のひとつひとつを丁寧に解析していくことで、植物の寄生能力がどこからきたのか、どうやって制御されているのかを突き止めることができると思っています。

寄生植物と宿主との駆け引き

寄生植物の研究で面白いのは、宿主植物との相互作用があるところです。宿主植物を認識して吸器形成を開始し、侵入し、維管束を連結させる。この一連のステップごとに植物間のシグナル伝達があります。最近、宿主に寄生している吸器の3次元構築をおこなったのですが、コシオガマの細胞は宿主組織の中で宿主の道管に巻きつくような構造をとっていることが分かりました。宿主の組織の中で維管束の位置を見つけるシグナルを受けて、どのように寄生植物の細胞が変形するのかを明らかにしたいですね。

コシオガマの吸器の3D画像。コシオガマの道管(赤色)は宿主組織の中で宿主の道管(グレー)に巻きつくような構造をとっている。

宿主との相互作用のステップごとに変異体を見つけて解析できれば、それぞれの段階を支配する遺伝子が明らかになります。そして寄生のメカニズムがわかれば、どうやって寄生雑草を防除すれば良いのかも見えてくるはずです。

また、寄生植物は、宿主植物と維管束をつなげて、RNAやタンパク質、植物ホルモンなど色々な物質をやりとりすることが分かっています。寄生植物は受け取った情報をさらに他の植物に伝える役目をしている可能性もあり、その場合どのような情報を伝えることができるのかに興味があります。寄生植物を使って他の植物に情報を伝達できるのであれば、今は厄介者と思われている寄生植物の能力を活かして、宿主植物を改変するようなことができるのでは、と思っています。

この記事について

構成協力 伊藤 千陽 / 撮影 松林 嘉克

吉田聡子 プロフィール:
1996年 東京大学理学部卒業。東京大学大学院理学系研究科にて博士(理学)の学位を取得。英国センズベリー研究所博士研究員、ミュンヘン大学助教、理化学研究所研究員および上級研究員を経て、2016年より奈良先端大特任准教授、2020年より現職。